蝉死暮
少し意識が朦朧としている様なこんな状態時でさえ、夢遊病患者の様にその両足は規則的に動き、目的地へと俺を導く。

足が自動的に止まると共に、一杯になった心という器から溢れ出した思いが、言葉となって零れ落ちる。

「ごめんな、雛乃」

辺りを埋め尽くしている時雨に遮られて、俺の言葉は届かないかもしれない。

両の掌を合わせ、心の中で何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
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