蝉死暮
子供の様に笑顔を絶やさず、小さな玩具のピアノを弾きながら幸せそうに歌を奏でる。

気付けば彼女ばかり見ていたし、消極的だった俺が告白までしていた。

突然の告白に涙を流しながら頷いてくれた君を、俺は真剣に愛していた。

春、桜の枝を病室の窓脇に飾った。

夏、屋上から夜空に咲く花火を二人きりで見上げた。

密度の高い半年は驚く程速く、俺を時の狭間に取り残して過ぎ去っていった。

これ以上はやめておこう。

日光で曖昧になって行く意識が、弱々しい危険信号を発する。

ゆったりと首を回すと、意識が少し覚醒した。
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