蝉死暮
彼女の体中からは、命を繋ぎ止める為の無機質なコードが何本も生えている。

彼女の左胸が刻む生きようとする意志が、まるでカウントダウンの如く電子音となって室内の静寂を乱していく。

小さく美しい唇は、プラスチック製の酸素マスクに覆われ、苦しそうな呼吸音がほぼ等間隔で漏れだしている。

彼女を起こさないようにベッド脇の椅子に腰掛けると俺は、声を殺して泣いた。

どの位泣いていたのだろうか。

数秒か、それとも数分かさえも解らない。

顔を上げると、彼女の目が薄く開いていた。
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