蝉死暮
小さく、くぐもった声が電子音に遮られる。

彼女の口の近くまで耳を寄せ、彼女の言葉を拾おうとする。

「ごめんね」

苦しそうに吐き出された四文字。

「なんで謝るんだよ」

出来る限り優しく告げる。

彼女の左腕がゆっくりと上昇し、白い指先が俺の頬に触れる。

「涙」

辛い筈の彼女に気を使わせる自分に、嫌気が差す。

「私、死ぬんだよね」

「そんな事言うなよ」
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