蝉死暮
病室には単なる抜け殻と、鳴り続ける電子音だけが残った。

気付くと、俺の右足が、地面でもがき苦しむ蝉を踏み潰していた。

君と重なってしまった蝉が苦しむ姿をこれ以上見ていると、本当に自分が自分で無くなってしまうような気がしたから。

どんな言い訳をしようとも、君を殺したのは俺だった。

幾ら思い出すのが辛くても、幾ら時が過ぎても、この記憶を薄れさせてはならないんだ。

死者は生者の中でしか生きられないのだから。

ポケットを探り、彼女が死んでから吸い始めた煙草を引き出し、火を点ける。

緩やかに虚空へと舞い上がっていく紫煙を追いかけ、目線を上にやると、天国まで続くような透き通った秋空が視界いっぱいに広がっていた。

一粒の涙が頬をつたって落ちていった。
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