Black Romeo and Juliet
「頼んでないっ! 助けたりしないでよ! わたしは……」


勢いで滑り落としてしまったグラスが、フローリングの床に弾けた。



それに一瞬だけ目を向け、わたしに視線を戻した。



「生きたくない……」


掛け布団の上で握り締めた手はやっぱり欠けていて、わたしの目には涙が溢れた。



「……なんで?」


わたしが砕いたグラスを拾いながら、彼はわたしに尋ねた。


「ヴァイオリン……ヴァイオリンが弾けないから……」


わたしの答えを聞いた彼は、何も言わずに拾ったグラスの残骸をゴミ箱に捨てた。


アルミのゴミ箱が、グラスの欠片を受けてカチャカチャっと乱暴に鳴る。


「そんくらいで死ぬな」


「そんくらいっ!? ふざけないでよ!! せっかく国家楽団に入れたのに……」


国家楽団。


楽器の道を志す者が目指す最高峰機関……。


選ばれた者だけが、ここで演じることを許される。



それを、十八歳という史上最年少で得たわたし。


「わたしの十八年間が意味を無くした……」



生まれたときから、ただヴァイオリンを弾くことだけを繰り返してきたわたしに……残ったモノなんて何もない。



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