ヴァーチャル・リアリティ
小さな島とはいえ、ここまで歩いて来てさすがに疲れている。


けれどこの建物周辺には座る場所もなかった。


「どうする? 他に道がないか探してみる?」


アユがそう言った時だった。


不意にコンクリートの一角が低い唸りを立てはじめた。


あたしたちは驚き、建物へ視線を向ける。


微かなモーター音が聞こえる中、コンクリートに長方形に筋ができたかと思うと、横にスライドして動いたのだ。


ポッカリと開いたその穴は、丁度ドアと同じくらいの大きさだ。


あたしたちは誰も言葉を発することができないまま、口をポカンと開けてそれを見ていた。


「これ……中に入れってことか?」
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