ヴァーチャル・リアリティ
ドアの上のプレートには『分娩室』と書かれている。


早足で進むと、床をこするキュッキュッと言う足音が響いた。


そして分娩室に手をかけたその瞬間だった……。


視界が切り替わり、あたしは大きな泣き声を上げていた。


なにも見えないのに、あたりは明るさにつつまれている。


事態を把握するより先に、理解していた。


あたしは今生まれたのだ。


○×産婦人科の分娩室で大声で泣いているのは、産れたばかりのあたしだ。


医師たちの声が聞こえて来て、周囲の慌ただしさを感じる。


温いお湯につけられて体を拭かれている感覚がする。


あたしはひたすら泣き続けていた。


それしかできなかった。
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