ヴァーチャル・リアリティ
小さな手が再び冷蔵庫へと延びた、その時だった。


外に足音が聞こえてきて小さな手が引っ込んだ。

冷蔵庫を閉めて、大慌てで部屋の隅へと移動する。


ゴミ箱の横に身を隠すように座り込んだとき、乱暴にドアが開く音がした。


さっき出て行った女の方が戻ってきたのが、視界の端で捕らえられた。


瞬間、全身が強張るのを感じた。


恐怖が体中を支配しているのがわかる。


ドタドタと大きな音を響かせながら部屋に入って来た女はこちらへ視線を向けると、大股に近づいて来た。


目が吊り上がっていて、赤い口紅がベッタリと塗られた口角がニタリと笑う。


「ごめんねぇ、ご飯、忘れてたねぇ」


やけに甘ったるい声でそう言ったかと思うと、黒いエナメルのバッグから食べかけのサンドイッチを突き出して来た。


開けてあるナイロンの中から、何かが痛んだような臭いがする。


小さな手が、震えながらそれを受け取った。
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