ヴァーチャル・リアリティ
「あああぁぁぁぁぁ!!」


百花が悲鳴を上げながら包丁を振り下ろした。


ドッと鈍い音がして、女性の動きが停止する。


途端に体重があたしの両手にのしかかって来て、体のバランスを崩してしまった。


女性ともども倒れ込む寸前、真っ赤に染まった百花の顔が見えた。


ギョロリと目を見開き、目の前の光景を凝視している。


あたしは女性の体を横へとずらして、どうにか這い出る。


女性の顔には包丁が突き立てられ、口を大きく開いたまま絶命しているのがわかった。


「百花……」


あたしは包丁をテーブルへ置き、百花へ駆け寄った。


百花が包丁をキツク握りしめているので、その指の一本一本を丁寧に外して行った。


包丁が音を立てて床へ落下した瞬間、百花の体から力が抜けた。
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