ヴァーチャル・リアリティ
「晴道はどう?」


梨花子の声が聞こえて来る。


「大丈夫、見つけた」


「待ってよ、どこ!? 全然わからないよ!」


アユの声は泣きそうになっている。


残り時間はあと1分だ。


あたしは握りしめた鍵を鍵穴に差し込んだ。


回してみると、なんの抵抗もなくカチッと音がした。


「アユ。あたしたち先に行ってるからね」


そう言ったのは梨花子だった。


もう時間がないことで、同じようにドアを開けようとしているのだろう。


「もしここでリタイアになっても、待ってろよ?」


悠太郎の軽い声が聞こえて来る。


「えぇ~! ちょっとみんな、待ってよ!」


「じゃあ、先に行ってるね」


あたしはアユへ声をかけて、部屋を出たのだった。
< 46 / 220 >

この作品をシェア

pagetop