ヴァーチャル・リアリティ
ドスン、ドスン、と大きな足音がどこからともなく聞こえて来たかと思うと、突然目の前に赤鬼が現れたのだ。


2メートルは超えている長身の鬼が、長い牙を覗かせてあたしを見おろしている。


口の端が奇妙に曲がり、笑いかけてきたのがわかった。


口の端からは唾液がしたたり落ちて来る。


そのリアルな鬼に歯がカチカチと音を立てた。


あと5分でこの鬼に食べられてしまう。


その恐怖に今にも心臓が止まってしまいそうだ。


「あたしは……陽大は裏切者じゃないと思う」


あたしは振るえる声でそう言っていた。


「は!? あの音楽は陽大が好きな音楽だって言っただろ!?」


晴道が苛立った声を上げた。


あたしはキツク目を閉じる。


VR世界が一瞬だけ遠のき、目の間に笑顔の陽大が現れた。
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