私と彼が知る地に堕ちた天使
第一章 十三日前・いつもの日常
side悠木花音
「花音、早くしなさい。悠哉くん待ってるわよ」
「わかってるよ、母さん」
私の部屋の前で声をかける母さんの声に返事をしながら、鎖骨辺りまで伸びた黒髪をシュシュで結んだ。
今日から二学期の始まり
季節は秋へ向かおうとしているけれど気温は夏並みに暑い。
窓から見える雲のない青い空とギラギラ光る太陽がそれを示している。
私が通う高校は私立の進学校
と、言っても特別優秀な生徒が集まっている高校というわけではなく校舎が綺麗で校則もあまり厳しくない普通の高校だったりもする。
珍しいのは制服だけ。
女子は白のセーラー服で男子は紺の学ラン。
まぁ、公立受験をする際に併願にで受ける生徒が多い高校のイメージが強いかな。
自宅から高校まで約一時間半かかるけど私は敢えてこの高校を選んだ。
地元や地元から近い高校には通いたくなかった。
ちなみにさっきから家の前で待っている一つ年上の幼なじみ、久我悠哉も同じ高校だけれど受験した理由は『何となく』らしい。
「行ってきます母さん、春彦さん」
忘れ物をしてないか鞄を確認し、部屋を出た私はリビングにいる二人に声をかけた。
慣れないから呼べない。
春彦さんを、父さんと呼ぶのは…。
春彦さんは別に構わないと言ってくれているし急がなくてもいずれ呼んでくれれば嬉しいからと紳士的な態度だったけれど
戸籍上、私の父親になってから約一年半
自宅に父親が居ることがむず痒い。
「行ってらっしゃい、花音」
「行ってらっしゃい」
玄関のドアを開けると、壁にもたれかかりながら本を読んでいる悠哉がいた。
学校内では悠哉は先輩だけど先輩呼びされたくないと入学時に言われたので私は『悠哉』と読んでいる。
一度だけ『悠哉先輩』と読んだら凄く嫌な顔をされた。