【完】キミスター♡
「海夏っ!」

「あー…緋翠、お久しぶり〜」

放課後。
茉莉江と一緒に帰ろうかと話していたら、ドタバタと急ぎ足の緋翠がやってきて。
その不安気に揺れている瞳を真っ直ぐには見つめられなくて、私はおちゃらけた声を出して、少しだけ緋翠と距離を取った。


「海夏?」

「んー?」

「…風邪、大丈夫なの?」

「あー…結構酷くてね?連絡できなくてごめんね?」


そう言いながらも、茉莉江の傍から離れようとしない私に、緋翠はより不安を隠そうとはせずに、近寄って来ようとする。

「ねぇ、海夏、話があるから、今日一緒に帰ろう?」

「今日は、茉莉江と帰るから…」

「…だめ?」

「……」


黙り込む私を見兼ねて、茉莉江がはいはいと間に入り込む。


「何があったのか知らないけど、あとは2人で話し合いなよ。ね?」

「…ん」


私は、茉莉江に助けを求めるような視線を送ったけれど、それには首を振られて却下された。

「なんでも、自分の中だけで解決しようとするのは海夏の悪い癖。それに…前園せんぱいも、色々海夏にばっかり負担掛け過ぎですよ?」

と、痛い所を突いてから、茉莉江は他のクラスメイトと一緒に帰ってしまった。


「体、大丈夫?」

「ん…大丈夫」

「なんで、メールくれなかったの?」

「だって調子悪かったし…」


そう言いながらどんどん距離を詰めてくる緋翠に、私は離れる。
でも、それを許さないというように、緋翠はとうとう壁際まで私のことを追いやった。

「なんで、避けるの?」

「避けてなんかないよ?」

「…海夏…」

そうして、カーテンに巻き込まれ、キスをされそうになった瞬間、私は緋翠の口唇を少しだけ傷付けてしまった。

「…っ」

「…ごめん、も、今日は一人で帰る」

「海夏…っ」


何かを緋翠は言いかけたようだけれど、私はそれを遮るようにして足早に教室を後にした。


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