家族でも、幼なじみでもなくて。
「優衣、ごめんなさい」

「急にどうしたの?」

「雅人さんに気をつけて、なんて言ったけど本当は嘘だったの」

「そうみたいだね。だって、すごく優しかったもん」

「優衣にはそれなりの覚悟をもって来てほしかったからあんなことを言ったけど、無意味だったみたいね」

「私もいろいろお母さんに迷惑をかけてごめんなさい。これからはもっと強くなるから…」

「たくさん迷惑かけていいのよ。だって私は…優衣の母親なんだから」


そう言って微笑むお母さんの声は、微かに震えていた。

中学、高校と家には一度も帰っていない。
だから、お母さんとの思い出は小学校で止まっている。
それがまた動き出そうとしているんだ。


「今まで逃げてきたのに、こういう時ばっかりお母さんを頼って……都合のいい娘でごめん」

「もう謝らないで、優衣」


俯いていた顔を上げてお母さんを見る。
潤んでいた瞳から一粒の涙がこぼれ落ちた。
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