家族でも、幼なじみでもなくて。
『りっくん、はやくいこ!』

『わっ! ゆいちゃん、まってよー!』

『あははっ、またないよ!』

『もう! ゆいちゃん!』


あの頃はただりっくんのことが大好きだった。
ずっと一緒に居たいって思ってた。
いつも隣にいるのが普通だと思っていた。

それなのに、今は……



ゆっくりと目を開けて体を起こす。
まだ少しクラクラする……

かけてあったジャケットが落ちた。


「優衣、どうしてここにいるの?」

「りっくんに会いに…」

「頼んでないけど?」

「伝えたいことがあって…」


りっくんは私の方を向かずに窓の外を見ながら冷たい声で話す。

怒ってるんだ。


「りっくん、助けてくれてありがとう」

「人が多いところは苦手なくせに無理して参加するなんて、バカなの?」

「……ごめん」


りっくんが助けてくれなかったら、私は今頃どうなっていたんだろう?


「僕、戻るから」


そう言って私の手からジャケットを奪い取ってすぐに背を向けた。

その一瞬の出来事でも私は見逃さなかった。
彼の目が赤かったことを。
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