家族でも、幼なじみでもなくて。
「りっくん…」

「呼ばないで」


日本にいた時と立場が逆転していた。


ドアノブに手をかけたりっくんを急いで呼び止める。


「りっくん! 待って!」


りっくんの動きがピタリと止まった。

裸足のまま彼の元へ駆け寄る。


「勝手に来てごめん、迷惑かけてごめん。嫌いなんて言ってごめん、突き放してごめん。冷たい言葉ばかりぶつけてごめん、都合のいい女でごめんね……今更、こんなに謝っても意味がないことはわかってる。でも、それでも私は……」


涙を堪えるように唇を噛みしめる。

泣いちゃダメ! 最後まで言わないと!


「……りっくんのことが好きだから。もう一度、私のことを好きに、なってくれませんか?」


これを言うために私はここまで来た。

どんなことを言われようと悔いはないと思っている。


「……遅いよ」

「え?」

「遅いんだよ、バカ! それに、僕がいつ嫌いになったなんて言った? ずっと大好きだって言ったでしょ?」

「好きになるのやめるって…」

「“これ以上”好きになるのはやめるってこと! 嫌いになるわけないじゃん! 僕は今でも優衣ちゃんのことが大好きなんだから!」

「りっくん…ごめんね」

「ごめんは禁止」


振り向いたりっくんの頬は涙で濡れていた。
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