dieっと
私は、ペダルを漕げない。
そしてそのことを、抜け目なく見抜いている。
「おや、お嬢ちゃんは優しいねぇ。この老いぼれに情けをかけるなんて、ホントに優しいねぇ」
おばあさんは、皺くちゃの顔を歪めて笑った。
【自転車を漕いで下さい。漕がないのであれば__】
アナウンスとともに、私たちの間の布が取り払われた。
いくつもの刃(やいば)が、螺旋状に伸びている。
ブーンという腹に響く音がし、刃が回転し出し、目に見えないくらいの速さで、空を切る。
「ちょ、ちょっと⁉︎」
上ずった声で叫んだ。
刃が動き出したからじゃない。
自転車が、引かれ始めたからだ。
こ、このままじゃ、刃に巻き込まれて切り刻まれる‼︎
【急いで漕いで下さい。1カロリー消費すると、自転車は30秒静止します。勝敗はどちらかが肉の塊となるまでです】
そんなっ。
やっぱり敗者の運命は決まっているのか。
「真帆ちゃん、漕ぐんだ‼︎」
部屋の外から、小塚さんの声がする。
その横で篠田さんも、大きな声で私を応援してくれる。
漕がないと、あの刃に切られてしまう。
でももし漕げば、米山多恵が肉となる。
2択だ。
私か、おばあさんか。
その2択。