dieっと
自転車がどんどん引っ張られる。
刃が起こす風を背中に感じるくらい。
でもそれは私だけじゃない。
相手の米山多恵も、平等に引かれ始めているというのに顔色1つ変えずに微笑んでいる。
私がペダルを漕がないと、笑っているんだ。
「真帆ちゃん‼︎」
小塚さんと篠田さんが、すりガラスを叩いている。
分かっている。
私だって分かっている。
このままじゃ、自分が死んでしまうことだって、耳を突き刺すような刃の回転音が教えてくれる。
でも、でも。
私が漕げば、殺してしまうのと同じこと。
そんなこと私には__。
「太田真帆、さっさとペダルを漕ぎやがれ‼︎」
心臓が跳び上がるくらいの怒声が、一瞬にして金属の音をかき消した。
篤志の声が、呪縛から私を解き放つ。
しっかり前に向き直り、私はペダルを踏み込んだ。
物凄い速さで、自分でさえも止められない速さでペダルを漕ぐと__自転車が止まった。
いや、止まっただけじゃない。
前に進み始める。
消費するカロリーが、死から私を遠ざけ始めたんだ。
「おや、お嬢ちゃん、ばあさんを見殺しにする気なのかい?」
思わず振り返ってしまった。
だって、さっきまでとはあまりにも声が違うから__。
私を見つめる米山多恵は、相変わらず微笑んでいる。
刃に引き寄せられながらも微笑んでいたが、その時、すーっと表情が抜け落ちた。