dieっと


思わず「ひっ‼︎」と息を飲むほどの、凄み。


私はすぐに向き直り、ペダルを漕いだ。


漕いで漕いで、漕ぎまくった。


そのひと漕ぎで、米山多恵が死ぬのだとしても。


生きるか死ぬか。


私は死にたくない。


こんなところで、死にたくない。


たとえ老婆の屍(しかばね)を超えなければならないとしても、私は生きたい。


こんなに自分が、生に貪欲だなんて思わなかった。


他人を蹴散らしてまで、生き残りたいと思う。


体から力が湧いてくる。


生きる力が。


ペダルを漕ぐ足にも、自然と力が漲ってくる。


その甲斐あって、私は刃に引き寄せられる力を食い止めていた。


そして、少しずつ前に進む。


もうそろそろ、ペダルを漕いでいない米山多恵が刃の洗礼を受ける頃だろうか?


つい、振り向いてしまった。


ただ自転車の上に腰かけているだけの老婆。


今まさに、その萎びた首に刃が食い込もうと__。


それなのに、にんまり笑って口に手を突っ込んだ。


ぬめりとともに、手がなにかを引っこ抜く。


それは【入れ歯】だった。


素手でひっ摑んだ入れ歯を放り投げる。


すると、米山多恵の自転車がピタリ止まった。


な、なんで⁉︎


【カロリーを消費することは即ち、減量するということ。体重を減らして頂いても、構いません】






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