dieっと


自転車に乗ったまま、米山多恵は義足を外した。


一体、あの作り物の足は何kgだろう?


カロリーにして、何カロリー分だろうか?


「残念だったねぇ」


そう言って、自分の足を放り投げた。


中央の刃から、どんどん離れていく。


逆に私は、吸い寄せられていくというのに__。


「真帆ちゃん‼︎がんばれ!」


ガラスの向こうから、私を応援してくれる声がきこえるが、太ももはもう限界だった。


膝が小刻みに震え、ペダルを漕ぐ力が出ない。


どんどん、どんどん自転車ごと後ろに引っ張られていく。


「ババアを怒らせたらどうなるか、ようく分かったろう?」


サドルに浅く腰掛けながら、私に向かって手を振る米山多恵が遠ざかる。


あと一歩で、刃が喉首を掻っ切るところだったのに。


今はもう少しで、私の襟首に刃が食い込もうとしている。


うなじが、風を感じる。


「いゃああああー‼︎」


絶叫することで、最後の力を振り絞ってペダルを漕いだ。


せめて、せめて止めることができたら。


「観念おしよ。年寄りは大切にするもんさ」


勝利を確信したのだろう。


米山多恵が自転車から降りたのが、私にもみえる。


私の目玉を、刃が引き裂こうとしていた。


もう、ダメだ。



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