dieっと


ぐらり。


視界が揺れた。


いや正確には、視界の中の【なにか】が消えたんだ。


米山多恵は自転車を降りた。


もう争う必要がないと確信したからだ。


私の首がごとりと転がる__と。


それは間違いなかった。


懸命にペダルを漕いでも、もう立場は覆せない。


足だって、とっくに限界を越えていた。


あと数秒、遅ければ【肉】となっていただろう。


それに、米山多恵が自転車を降りなければ、そのまま私の負けだった。


左足から降りなければ。


自分で取り払ったはずの左足。


そこに有るものだと思い込み、ない左足で自転車を降りたババアは、完全にバランスを崩して倒れる。


私の視界から消えた。


よろけた先には、鋭利な刃が待っていたんだ__。


私を切り刻むより先に、米山多恵の首が引きちぎれた。


ごろりという、軽やかな音とは無縁。


骨が削れる音と、血しぶき。


おばあさんは、今度こそ本当にバラバラになった。


でももう、繋ぎ合わせることはできない。


2度と、息をすることもない。


私はようやく、自転車を下りる。


自分の足で、自転車を下りた。


【太田真帆さんの勝利とします】



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