dieっと


篤志がぐらりと揺らいだ。


片方の手を離したからだ。


針に刺さったのか、刺さるのを防ぐ為かは分からないが、片手だけで掴まり今にも落ちそう。


「や、やった‼︎お、俺の勝ちだ‼︎」


本郷守は高らかに笑い、懸垂をやめた。


少しずつバーが上昇するが、すぐに篤志が針山に落下するから構わないのだろう。


不安定に揺れる振り子のようで、見ていられない。


もうあと数秒で、篤志のバーは天井の針に__。


「止まってないか?」


小塚さんが天井を指差す。


カロリーを消費しなければ、決して停止しないはず。


1回も懸垂をしていないのに?


しかも__?


「笑ってる?」


篠田さんが眉を寄せる。


笑い声は聞こえてくる。


本郷守の、勝利を確信した笑い声と__笑い声を堪えきれずに鼻が鳴っている音。


ぶらんぶらんと片手でぶら下がっている、篤志のバーが、ゆっくりと下がっていた。


「お、おい‼︎なんで、なんで⁉︎」


代わりに、対戦相手のバーが上がっていく。


私も思わず「どうして⁇」と呟くくらい、鮮やかな逆転劇。


今や大口を開けて、篤志は笑っていた。


明らかな勝者の笑みだ。






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