dieっと
少しずつ、天秤が傾き出した。
篠田さんが、その猛烈な食べっぷりで体重差をつけ出したんだ。
それなのにアキは慌てることなく「ふーふー」と、ステーキに息を吹きかけている。
あのおちょぼ口では、篠田さんに敵うはずがない。
掃除機のように食べ物を吸引する篠田さんは、本領発揮といったところか。
「これなら楽勝じゃない?」
私はつい、明るい声を出した。
これまでの対戦とは違い、物々しい雰囲気じゃない。
体を切り裂いたり貫いたり、刃物も見当たらないし、篠田さんは着実に差を広げつつある。その証拠に、アキの乗る天秤がかなり浮いていた。
それなのに「どっかで見たことがあるような?」と顔を曇らせている小塚さん。
きっと南アキのことをいっているのだろう。
グラビアか、売れないアイドルか、どうせそこらへんの__。
「思い出した‼︎まずい、気をつけないと」
「気をつける?」
「ああ。あの南アキは、大食いYouTuberだ」
「大食い、ユーチューバー?」
「あのルックスとスタイルなのに、どんなものでも食いつくす胃袋の持ち主で、その食欲は底なしだ」
「うそっ」
私はすぐに否定した。
今も、パスタをくるくるとフォークに巻きつけている。
あんな上品な食べ方じゃ、差がついてしまう。
篠田さんの優位は揺るぎない__?