dieっと
【それでは再開します。3kg差をつけて下さい】
篠田さんが自分の天秤に戻り、再び拘束されると戦いは再開された。
けれど、2人とも動かない。
アキは激しく咳き込んでおり、篠田さんも疲れ切った様子だ。
今から3kgをつける。
恐らくもう、2.9999…kgと3kgに限りなく近い差がついているはず。
その証拠に、天秤はなにかの拍子で地についてしまうくらいの隙間しかない。
アキがもうひと吐きすれば、すべてが終わる__。
「大丈夫?痛くない?」
それなのに、優しく声を掛ける篠田さん。
完全に戦意は失われているようだ。
そもそも、篠田さんが3kgをつけるにはどうすればいい?すでに2.9kg差がついているが、それはアキが吐くことによってつけたもの。
やっぱり1から3kg差をつけなくてはならないのか?
「水を飲むといいわよ」
あくまでアキを気遣う。
そうだ、篠田さんはそんな人なんだ。弱いけれど、優しい。弱いからこそ、どこまでも優しい人。
その思いやりはきっと、アキの心にも届いているはず。
「__ありがとう」
作り物じゃない、素の声だった。
死にかけたんだ。
強烈な痛みに襲われ、危うく命を落としかけた。そのまま放っておけば勝てるのに、命を救ってくれた心意気が胸を満たしているはず。
「ありがとう」