dieっと
小塚さんは無理強いしなかった。
それじゃ、せめてこれだけでもと、水をくれた。
差し出された冷たい水が、喉を潤してくれる。
粘りついた嫌な膜のようなものが、少しだけ取れた気がしたけれど、席につく気にはならない。
「あの__」
由加里に呼びかけようとするも、言葉がつかえて出てこない。
完全に目の前の【肉】しか見えていないからだ。
完全に記憶がないのか?
極度の飢えが、そうさせたのだろうか?
由加里を【獣】にしてしまった。
人間と獣の間に引かれた線を、越えてしまったんだ。
踏んだんじゃない。
越えたんだ。
ただ踏んだだけなら、足を戻せばいい。
そうじゃない。
越えてしまったからもう、戻れない。
いや、声を掛け続けたらまた、こちら側に戻ることができるのだろうか?
私が諦めちゃいけないんじゃ?
でも__私自身が線を踏み外さないとは限らない。
こんな異常な状況下で___?
テーブルが静かになっていた。
食事が終わったのか、篤志は項垂れ、アキは椅子から転げ落ち、由加里はテーブルに突っ伏している。
「えっ、なに⁇」
そう口にした途端、世界が回った。
床に崩れ落ち、意識が遠のいていく__。