dieっと


【もうあなたは、以前のあなたじゃありません】


私は喉の奥に指を突っ込んで、私が私でなくなるものを吐き出そうとしたが、なにも出てこない。


どこの誰かも分からない肉が、体に浸潤していく。


取り返しがつかないことを、してしまった__。


もう私は、普通の食事ができないのか?


【あなたはこれから、求めるはず。これまでの食事ではもの足りず、極上の人肉を渇望し始める】


そんなことはない。


あり得ない。


ここから出たら、美味しいものを沢山、食べるつもりだった。


ピザにパフェにハンバーグ、大好物をお腹いっぱい食べる、はず__だった?


それらを頭に浮かべた途端、舌が痺れて苦味が広がる。


生クリームを頬張ることを考えただけで、寒気が止まらない。


吐き気が襲ってくる。


ただ、好きなものを思い浮かべただけなのに__。


【自分の胸に手をあてて、心に尋ねてみて。本当はどうしたいのか、どうなりたいのか。自分を解放する時よ】


自分を、解放する?


確か、小塚さんもそんなことを言っていた。


突き上げる思いに、身を任せろと。そうすれば、新しい扉が開くのだと。


でも、その扉を開けば、もう元には戻れない。


もう、元には__。



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