妻の知らない夫の時間
第1章
 夫が妻に嘘をつくと妻は思っているか?
「いや特に考えないようにしていたんだ」。瑠璃子はいった。
今、瑠璃子は親友の洋子とご飯をたべている。いつものファミレス、いつものハンバーグランチなのに今日の瑠璃子の食は遅々としてすすまない。ただドリンクバーにばかりいっている。喋り過ぎて喉がカラカラなのだ。
 なんで瑠璃子が洋子をよびだして夫の相談をしているのかというと、数十年前、洋子が同じ相談を瑠璃子にしたことがあるのを思い出したからだ。きっと洋子なら素晴らしい発言、妙案をだしてくれるだろう、きっと瑠璃子をこの苦海からすくいだしてくれるだろうと考えたからだ。
 「そういうボヤ騒ぎわねー、暇な男がやるものなのよ、ほら犯罪者って皆プー太郎とか、失業者が多いじゃない、男は暇になるとろくなことをしない」
たしかに洋子の発言はあたっている。
 夫の陸男がある日突然、女性問題を自分から告白して、瑠璃子はいっきに苦海にしずんだ。今まで、自分ほど夫に愛され、幸せ者はいないとたかをくくっていたのにそれは夢だとおもいしらされたのだ。
 夫は誠実まじめ、信頼のおける男だとおもい結婚したのだ。特別面白い冗談の言えるタイプではないが、子育ても協力的で、瑠璃子の両親にも優しい陸男を瑠璃子は正直「あたり」だとおもっていたのだ。
今はハッキリ、「はずれ」でしょう。だって浮気まではいかないが、ソレまがいなことを5年半もしていて、退職したあともPCにアカウントを新しくつくり、妻に隠れてソノオンナとメール交換し、また会おうと画策していたのですから、、、。
「 首ねっこをつかまれていた。お前がおもかった」
今、突然いい逃れみたいに苦しそうに陸男はうめく。
瑠璃子といえば、そんな言葉はとんでもない。比較的さっぱりした性格で若いころから、竹をわったような性格、と男どもにいわれていた。
 陸男から、給料を直接もらったこともなく額をしらされたこともない。興味なかったし、夫は自由に何でもしていたはずだ。多額な買い物も自由にしていた。
たぶん瑠璃子はやきもちやきでもなかった。彼の会社のことには関心などなかった。第一瑠璃子は社会貢献活動でとても多忙だったのだ。
 今から思い返すと陸男はそのころ6年位前から性格がかわっていった。
テレビなどで報じられる、男女のあやまちに寛容な発言をしていたし、昔は絶対瑠璃子の実家の悪口などいわなかったのに平気でののしって、瑠璃子はいったい夫はどうなってしまったんだろうと心配をしたものだ。
 瑠璃子は女三人姉妹の末っ子、男の気持ちなどわからない。陸男には姉もいたし、おんなの気持ちも少しくらいわかるとおもっていた。
「裏切り」、いつしかこう瑠璃子はよんでいる。
ことは少しこまかく説明しておこう。しかし、陸男の告白全部なんで、本当はもっとたくさん色々していたかもしれない。
 女性ふたり(元部下)、がどんどん職場に来たり食事にさそったりしてちかずいてきた。一人は陸男より若いらしい。既婚者。もう一人はハッキリ言って婆さん。瑠璃子も最近会ったが実にオカメであった。未婚。まあ、むりないか。
問題は若いほうだ。本当に性格がわるい。正確にはわからないが、オカメいわく、優秀で顔がいいらしい。ただ不細工曰くなんでわからない。派遣の女です。
 コイツがキー-マンだ。なんだかんだ夫に甘えちょっかいを出して夫をその気にさせ、二人で夫の職場にきてはついに三人の固い絆をむすばせた。
 現在夫はいう。
「どうしょうもなかったんだ。あいつらが何度もちかよってきて、すきだらけで、ちょっと誘ってみたら本当についてきたんだ。断ってくれればよかったんだ。お前には最初から悪いとおもっていたが、一度嘘をついたら、うまくいった。それから、ずーとつづいてしまった。後悔したことも罪悪感もお前のことをその最中かんがえたこともなく、女たちとすごした。居心地がよかった。楽しくなければこんなに長く続くはずがなかったろう。
でも今は後悔している。目がさめた」
 そうです。それは長い5年間と半年でした。退職してもやめられず、またあの女どもに会おうとしていたのです。
とてもおぞましいです。夫は会社に行くと嘘をついて女共にリーダーにさせられ、いわばわが家の聖地ともいえる場所を、食事やカフェーをいれて3コースだす、それを女たちがえらぶ。スケジュールを陸男にしらせ、陸男が集合場所と時間を連絡する。あとで瑠璃子が女にきいた話では、「もともと女2人はチームで、そういうことをやっていて、途中から陸男をいれた」、のだそうです。陸男はそれもしらず、「俺の作った俺の得意のチームだ」と豪語して半日や一日エスコートして女共に満足してもらえることに喜びを抱き、案内をしていたのです。バカみたい。
オンナ達に褒められ、あまえられ調子にのっていい気になって鼻の下を伸ばして、です。 瑠璃子の存在や、自分が既婚者なのもすっかりわすれて。
もう初老の三人なのにです。
瑠璃子はその何年かは丁度交通事故の後遺症でほとんど動けないような療養生活なのに夫は平然と嘘をつきまくっていたのです。人間といえますか。
 こういう男と結婚生活をつづけられるものでしょうか?
相談した弁護士いわく、あいつらは相当に悪い女らしい。うちの人畜無害安全パイ男を便利に使いまわしていたらしい。
他の奥様はこういうとき、我慢をしますか?自分の男が、会社に行っている時間に、女どもと街歩きを堂々と6年近くもしていたのですよ。
 そうです、とうぜん離婚とか別居という言葉が頭をちらつくどころか全開でしょうね。もちろんすごく頭にきてますから瑠璃子だって離婚を散々かんがえましたが、いろいろ無理なのですよ。こどもたちは結婚、出産と、立て続けに言ってくる。里の親たちも高齢で病気がち、第一お金の余裕がありません。そんなこんなで瑠璃子もすごく体調をくずしてしまった。
自分がたちゆかないのに、これ以上不便になるわけにはいかないじゃないですか。
 苦しいですよー。自分を裏切りまくった古夫と伴に暮らすっていうのは。

「もうしないし、二度と女たちには会わないんだから許してくれよー」
「どこまで甘えてるんだ。ちゃんと自分のケツは自分で拭うんだって、夫よ」、
上品な瑠璃子さんたら、こんなきたないお言葉ははじめてでやんすよ
アンタが下品な女たちに引っかかるからコッチまで下等になるじゃないか。

それにしてもなんで、こんないい歳になって我が夫は浮気まがいをして、、、。それにしてもいい加減浮気まがい長すぎますよ。そして自分ではどうやっても辞められないんだ。不思議すぎます。病気か?いやことが浮気まがいだからだ、、、。男女関係だから切れないんだ。普段は物静かで人前に出るのは恥ずかしがるようなそんなシャイな夫です。
そこが良かったし、瑠璃子もシャイです。だから老後は静かで、いい茶のみ友達夫婦ができると長年待ってまって、夫の退職をまちわびていたのです。
それを、もれなく女が付いてきた。
誰だってそう、瑠璃子だって人生の集大成にはいっていたんだぞ。
それなのにこんなひどい目に合わせやがって人生だいなし、よてい狂いぱなしじゃあないか。
あの女たちは殺してやりたいよ。

ヘラヘラ人の夫にすりよってきて、他人の家庭を木っ端みじんに粉砕したんだぞ。
あの夏の日。
「退職するずっと前からやっていた町歩きに1日行く。9月の予定をおしえてくれ」
「エッ、何それ、聞いてないよ。何時そんなサークルはいってた?それって3人で2人は女、一人は男であんたでしょ」
「いつからよ?」
「ずっと前から」
「ずっと前っていつ?」
「再雇用になったその時、最初から」
「エーッ、もう6年ちかく前からじゃない。ゆるせません」
真っ青になってゲロリすべてはいた夫
「これ以上やったらもうオレ人間じゃないよー。」となきそうに言って。

「5年半前から、やっていた。俺が作った俺のお気に入りのサークル。俺の意志で暗黙の了解で集まり、リーダ―が俺でやっていた。俺のもう一つの世界。最初女たちがなんども職場にやってきてどうしょうもなかった。お前は俺のもう一つの世界をとりあげた。オトコにはもう一つの世界が必要なんだ。」
訳がわからない。ただ浮気まがいを正当化したいだけじゃないか、何でもうひとつの世界が女と一緒なんだ。ただハーレムを言い訳を作って楽しんでいただけだろう。
おんな達もおなじいいわけを、、、。「上司とは仕事の延長のつきあい、男女既婚未婚関係ありません。上司のさそいを無碍に断るのは難しく」
若いほうはさらに狡猾だ。シャーシャーとこんなことまで言う。
アバズレあんたがいつものようにウブな年寄り男を、だましてその気にさせただけだろう。
そんな理屈がつうじたら世の中犯罪おこらないよ
 えらそうに理屈をのべるがようするに、夫は女たちといたいが為巧妙に療養中の妻にこと細かに嘘をつきまくっていただけだ。最低な男だったのだ。信じていたのにそれを逆手にとるなんて、、、。オトコの風上にも置けないヤツだ。
瑠璃子は今回ばかりは本当にまいった。もう生きていけないとまでおもった。
 女たちを案内したコースは全て瑠璃子や家族といった場所。そうじゃないと女たちをちゃんと案内、満足させられないからだそう。
なさけない。そしてふざけるな、陸男。あたしはアンタからそういった接待を受けたことなぞ一度もないぞ。
そう言ったら
「身内だからだ」。それもふざけるな。
女房さえ満足させられないくせにー。あーこれはルール違反、失言です。とりけします。
 
若いほうの女とはなんだかんだ200通位メールをしまくっていた。
5年間で、他にも若いほうの女には職場の写真を毎月送り5年間で60通、送って感想などを調子にのって女から毎度もらっていた。
写真をしらべたら、瑠璃子におくったのと同じのもたくさんあったのだ。ふざけている、どこまで妻をバカにしているんだ。上があのバカ女で、妻が下だなんて、、、。

さらに自分の写真展、瑠璃子には少しほのめかしていたくせに、あとはごまかし、女たちをいつも3年間3度も連れ、へらへら褒められていい気になっていた。瑠璃子には写真展があったことさえ気ずかれないよう気をくばっていたという。なんという卑劣な人間だ。人の夫とはとても思えない。人間失格だ。
写真展の後はお決まりのオンナタチとのデートだった。
そして5時に女たちを駅までおくってやり、いつもどおりなにくわぬ顔してご帰宅だ。そうそう、いらないものレシート等は途中で捨てて、またカメラ等は隠しユウユウとご帰還だった。写真は翌日送り、毎度貰ったクッキーは翌日から、会社で細かくして捨てていた。さらに最後の方でお帰り時お菓子交換会に陸男も加わった。
毎回おんなたちに会う前にお菓子を買って帰り時交換会に入る。
おままごとにいれてもらっていたんだ。
陸男よ、アタシの前ではいばっていたのに、会社でクッキ―をちぎり捨てていたみじめな姿こそお前だ。

それなのに
さらに「家に帰れば同じ顔」といいやがって、、、。

余計だ、アタシだってそれは耐えているんだ、世界中の夫婦はたえているんだ。

もう何がなんだかわからなくなってきた。夫は優秀で誠実な1会社員だったはずだ。いつからこんな嘘つき男になってしまったんだろう。

元々小心者がだいそれた浮気まがいをしていたんだから相当苦しかったはず、、、。
それでもすでに悪行は完璧にやりとげていた。
3人の街歩きアルバムはきれいに包装されてカワイイリボンまでついている計算だ。
瑠璃子は絶望という感情をはじめて味わった。
やられた。完敗です。ずっと頑張っていきてきた人生だったがまさかの自分の夫にやられた。

心臓をグサッとやられた。ナイフの芯をもっているのは我が夫でそれに手をそえているのが2人の女たち。誰か助けてください。このまま正気でいきていけというのか。
普通、女はそれほど悪くはなれない。現に世の中の事件のほとんどは男どもではないか?
女は理性があるのでそう自分をとことん追い込めないのだとおもう。
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