極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
扉が閉まると、ソファーの上に寝転がった。

「あー最低だわ。マグの奴、何しに来るのかしら」

シェールにとっては間違いなく良くない事だろうけど、マグダレーナの我儘さは突き抜けているのだ。

凡人のシェールが予想出来る筈もなく、よって対策も難しい。


「あと少しで千日のこんな時に……」

そう呟いたシェールは、ハッとして勢い良く体を起こした。
それから立ち上がり大急ぎで衣装箪笥を開け、奥深くにしまい込んでいた箱を取り出した。

箱の中にはシェールの私物の中でも、特に人に見られたくない物が纏まっている。

別の場所に隠しておいた鍵を使い箱を開けた。

手紙の束と紙幣の束の下に埋もれている紙を取り出すと、シェールは真剣な面持ちで目を通し始めた。


【ラドミーラ・シェール・フォン・ユジェナとして守るべき事】


輿入れ前の一月、ユジェナ侯爵が密かに雇った教育係りから持たされたものだ。

守るべき事と言うのは、言い換えれば決してやってはいけない事。

つまりは多数に渡る禁止事項一覧なのだ。

「何か失敗したのかも」

マグダレーナはそれを指摘に来るのかもしれない。

「マグの奴、私が失敗すると大喜びしてたもの」

その度に、マグダレーナへの好感度が下がって行ったものだ。

マグダレーナに馬鹿にされようが嫌われようがどうでもいい。

けれど、千日目の約束を反故にされるのは困る。

約束した相手はユジェナ侯爵だけれど、愛娘がシェールの失敗を報告したら、どうなるか分からない。

「隙を見せたらおしまいだわ」

あと、三十六日。シェールは何としても無事に過ごさなくてはならないのだから。
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