極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
シェールは毎朝、日の出と同時に起床する。

王族、貴族としては早すぎる時間だけれど、長年の平民生活の習慣はなかなか抜けない。

ベッドから起き、自分でカーテンを開けて陽の光を部屋に入れる。

夫アフルレートはシェールの存在を無視しているけれど、意地が悪いような事はせず日当たりの良い東側の部屋を与えてくれた。

その事については感謝している。

朝の光を浴びながら簡単な運動をする。
大きな音を立てられないから、固まった体を伸ばす程度だけれど気持ち良い。

すっきりとした後は、カーテンを締めて侍女が朝の支度用の水を持って来てくれるのを、寝たふりしてひたすら待つ。

本当は自分で取りに行った方が早いのだけれど、王弟妃がそんな事をしてはいけないそうだ。

早く起きているだけ、お腹も空く。ちなみに食事を自分で用意するのも、水と同じ理由で禁止だそうだ。

そんな訳で空腹に耐えながら侍女の訪れを待ちわびていると、いつもより大分早い時間に足音が聞こえて来た。

ノックの音がすると、シェーラは表情とお腹に力を入れて気を引きしめた。


「入りなさい」

“受け答えは簡潔に。抑揚は付けず、時々命令口調を挟む事を忘れずに”

ラドミーラ妃殿下としての嗜みとして教えられた通りに声を出して答えると、扉が開く。


「おはようございます」

「おはよう」

「本日は来客が有る為、早めに参りました。早速お支度を始めてよろしいでしょうか」

どうやら侍女は家令の命令で来たようだ。

「構わないわ」

シェールはそう言うと、侍女の持ってきた水桶を使い顔を洗い、それから鏡台の前に置かれた椅子に腰掛ける。

鏡には蜂蜜色の髪と碧い瞳の、無表情の女が映っている。

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