極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
「どうしたんだい?」

浮かない顔になっていたのか、ノーラが心配そうに声をかけて来る。

「いや、何でもない」

この村唯一の薬師ノーラは気難しいところがあるけれど、薬師としての腕は確かだし、気に入った相手には情が深い。

シェールの事は、特に好ましく思っているようで、自分の後継にしようと鍛えている。

少し厳しすぎると心配になるのときもあるけれど、当の本人が納得しているのでカレルとしては口出しをしない事にしている。助けられる事は積極的に手を貸すようにしているけれど。


「何か悩んでいるようだね、シェールの事かい?」

「……それだけじゃない」

「そうかい。まあ、あまり思い悩まない事だよ。考えたって状況は変わらない。じっと待つのも手だからね」

「ああ、そうだな……」

「シェールが来ないなら、洗濯を頼める者を貸してくれないか? 最近怪我人が多くて汚れ物が沢山出るんだよ」

ノーラが不満そうに言う。

『健康が一番、怪我をしないように気を付けるんだよ』普段からそう言っているノーラにとって、怪我人が続出する今の状況は我慢ならないのだろう。

それでも全員しっかりと手当をするから、包帯も当て布もどんどん減り洗濯の手が回らない。

「分かった。あとで誰かを寄越すよ」

「助かるよ。この年で洗濯はきついからね。シェールはその事を分かっていて、口では文句を言いながら全部やってくれるんだよ。思いやりのある子だよ」

「……ああ。だが今度手荒れの薬を作ってやってくれ」

カレルの言葉に、ノーラはにやりと笑う。

「あんたもあの子には優しいよね」
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