極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
サンレームの冬は寒い事で有名だ。

秋が深まって来た今、冬へ向かって日々気温は下がって来ている。
井戸の水もヒンヤリとしていて、長く触れていると痛くなる。

シェールは桶から汚れた洗濯物を取り出し手早く分けると、生地が厚めのシーツだけを桶に戻した。

乾くのに時間がかかるものから洗えと、ノーラに言われているからだ。

桶に水を張り、汚れ落としの木の実を入れると、ゴシゴシと擦り始めた。
シーツの汚れは頑固で、力を入れないと綺麗にならない。結構重労働なのだ。

汗を滲ませながら、シェールはひたすら擦りつづける。

「なかなか落ちない……本当に手荒れは駄目なんだけどな」

にわか令嬢のシェールは、貴族としての嗜みが無い。
だからユジェナ侯爵家は、最低限これはやっては駄目だという一覧を作り守る様にと渡して来た。

沢山の禁止事項の中に、手荒れ禁止が有った。それから日焼け厳禁も。

そんな事を気にしていたら生活出来ないと思ったけれど、義姉のマグダレーナの手は真っ白でシミひとつなく、爪先まで綺麗に整えられていた。貴族令嬢の手は美しくなくてはならないのだと知った。

じゃぶじゃぶと洗濯していると、シーツは綺麗になるけれどシェールの手はどんどん痛んでいきそうだ。

「ノーラにあとで、手荒れ防止の薬を作って貰おうかな」

粗方綺麗になったシーツを桶から出し水を入れ替える。
井戸水は豊かで水は使い放題だから、遠慮なくすすぎが出来る。

「それにしてもきついわ。ノーラって鬼だわ」

ブツブツ言いながら、力を入れて縛り水を切る。

やっと一枚終わったけれど、洗濯物はまだ山の様にある。

洗う時屈むせいか、足腰も疲れて来てしまう。

「……でも、これをノーラがやるのは無理だよね」

自分でも大変なんだから、六十歳を超えているノーラにやらせるのは可哀想だ。

「私がやるしかないよね……よし、頑張るか!」

ひとり気合を入れていたシェールに、後ろから声がかかった。

「お前、相変わらず独り言ばっかりだな」

からかう様なその声は、低いけれど心地よい。

シェールの胸はたちまち高鳴り始めた。
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