極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
「お前にとっても喜ぶべき事だろう。夫が想像以上の大物だったのだからな! お前も今後は社交界の注目の人物だ。皆がラドミーラ王弟妃殿下の機嫌伺いに馳せ参じる事になる」

その発言にシェールは驚き目を丸くする。

「何を言ってるのですか? 私はあと少しで王弟妃ではなくなるんですよ?」

「何の事だ?」

ユジェナ侯爵が首を傾げてみせる。
わざとらしいその仕草に、シェールは声を荒げた。

「輿入れの前に約束したはずです。バルデス国の貴族の離縁が許される千日目に、王弟妃の地位を降りて良いと。約束は必ず守ると誓約書も書いて貰っています! だから私は結婚を受け入れたんです」

シェールの訴えに、ユジェナ侯爵は少しも動揺を見せなかった。
怖いほどの冷静さで、冷ややかに言う。

「離縁など出来るはずがないだろう。貴族位の我々が王族に対して申し入れなど許されない」

「でも……以前は離縁も可能だってユジェナ侯爵自身が言ったんですよ?」

「そう言わなければ、お前は身の程知らずに結婚を渋ったではないか?強引に事を進めることも可能だったが婚礼の日に騒がれでもしたら、厄介だからな」

「……騙したって事ですか?」

シェールはユジェナ侯爵をキッと睨みつける。

「人聞きの悪い顔を言うな。私は約束を守っている。お前の故郷のリント村には、無理な税の取り立ても行わないようにしたし、資金援助もした。お前だって利益を得ているのだ」

「……でも、約束は約束です」

引く気配のないシェールに、ユジェナ侯爵は苦笑いの表情になった。

「頑固だな。母親に似たのか……」

ユジェナ侯爵はそう呟くと、声を大きくした。

「誰かいるか?」

呼びかけに応じて扉の外で控えていたユジェナ侯爵の従者が、部屋に入って来る。
侯爵が合図を送ると心得ていたように、素早く大きな封筒を差し出した。








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