極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
ユジェナ侯爵は封筒の中を確かめる事なく、そのままシェールに向かって放り投げた。

「お前のものだ。中を見てみろ」

シェールは怪訝に思いながらもそれを受けとり、紐で閉じられた封を開ける。

中には書類が一枚。
取り出して記載されている文字を読んだシェールは、驚きに小さな声を上げた。

「これって……」

「リント村の権利の譲渡に関する書類だ。勿論正式なものだ。あと七日後。アルフレート殿下との結婚千日を迎える日に、お前はリント村の領主となる」

ユジェナ侯爵の言葉に耳を傾けながらも、シェールは素早く書類を確認する。
確かに正式なもののようだ。
国土大臣のサインもしっかりと入っている。けれど、念の為、後で再確認した方がいいだろう。

シェールが黙り込んだのを見て、ユジェナ侯爵は満足そうに言う。


「これで文句はあるまい。私はしっかりと約束を守っているのだからな。誓約書に書いてある条件。離縁が叶わない場合はリント村の支配権をお前のものとする……確かに果たしたぞ」

「……初めからこうするつもりだったんですか? 全てユジェナ侯爵の筋書き通り?」

シェールの力無い呟きに、ユジェナ侯爵は再び葉巻を嗜みながら答えた。


「そうでもないな。アルフレート殿下の出自は予想外だった。国王には完全にしてやられた。初めから分かっていればお前ではなくマグダレーナを嫁がせていたからな」

「離縁のことは?」

「それはその時の状況次第といったところだった。アルフレート殿下から離縁の申し出が無ければ婚姻続行。お前にはリント村を譲る。ろくな税収の無い村一つ失ったところで損は無いからな。だが私はアルフレート殿下の方から離縁を申し出て来ると思っていたがな」

「……まだ分かりません。明日にでもアルフレート殿下が離縁を言ってくるかもしれない」

封筒を胸に抱くようにしていたシェールが呟くと、ユジェナ侯爵は愉快そうに笑った。
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