極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
すると、それまで無言だったテオドルが発言した。

「彼女からは言いづらいと思うので私が客観的な事実を述べます。王弟殿下との婚約が成立したとき、リント村にはユジェナ侯爵より多額の支援金が送られました。これはミシェールの願いに応えたものですが、この支度金を使い村を改善して行く為に、ミシェールの知識と指導力が必要でした。シェールがその役割を変わる事は不可能でした。村の人々はミシェールをユジェナ侯爵の私生児として、侯爵にも秘密に講師を雇い特別な教育をして育てました。けれど生まれてすぐに養子に出されたシェールは普通の村の娘として育ったからです」

「つまり、シェールでは役不足だったと言うことか。それでシェールを仮の王弟妃として、ミシェールが村を立て直すのを待っていたと言うことか」

カレルの言葉をテオドルは肯定した。けれどミシェールは首を横に振った。

「それだけじゃないわ。シェールが身代わりになってくれたのは、きっと私に自由な時間を与えてくれようとしたからだと思います。あの子は優しいから、ユジェナ侯爵の命令で結婚する私をとても心配していたの」

「シェールならそう考えるかもしれないな。それであいつは、ひとりここで過ごしていたのか……」

カレルの脳裏に、シェールが冗談交じりで言っていた言葉が思い浮かぶ。

『私の独り言が多いのは孤独な環境のせいよ、いつも寂しくて泣いてるんだから』

笑いながら言っていたけれど、あれは紛れもなく本心だったのだ。
シェールはこの部屋で、いつも寂しさに胸を痛めていた。
それだけでない。いつ入れ替りがばれるかと不安に怯えていたはずだ。

「あいつはどんな気持ちで毎日を過ごしていたんだろうな。故郷で皆と一緒に働く事も出来ず、ひたすら時間が過ぎるのを待つ。いつばれるか分からないのに逃げる事は許されない。贅沢もせず楽しみもなく……俺だったら耐えられないな」

シェールの生きてきた千日は、想像以上に心を失う日々ではないのか。

痛ましさにカレルが顔をしかめると、ミシェールは対照的に柔らかく微笑んだ。

「シェールの心の全ては双子の私でも分かりません。でも……あの子は私が心配していたよりずっと逞しくて前向きでした。そして心は満たされていた。カレル殿下、あなたのおかげで」

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