月光と罪
第三章
月の隠れた夜、行き慣れた椿氏の館

つまらない大人の場所、息苦しいコルセット、歩きにくいピンヒール

ここまではいつものこと

しかし今日はいつもとは違い、お兄ちゃんがこの場にいた

質問攻めに遭いながらも優雅に笑い、誰よりも美しい所作

かつての兄の姿そのままに楽しんでいるようにさえ見えたけれど

今までのように私と一緒にはいてくれなかった

ずっと定位置のバルコニーでお兄ちゃんを見ていると、見慣れない女性がお兄ちゃんに近づいてなにやら耳打ちをした

そのままこっそりと抜け出すお兄ちゃんと女性を追いかけ、私も何気なくを装い会場を抜け出した

会場だけでなく廊下の家具や壁画までもが豪華絢爛なのは流石 派手好きな椿氏といったところか

この集会もただの集会なのにドレスコードがあるのは単に彼の趣味だろう

そうこう考え、気づかれぬよう距離を保って追いかけていると、兄らの姿はなくなってしまった

『・・・見失っちゃった』

どこかの部屋に入ってしまったのだろうか?

きょろきょろとあたりを見渡していると、肩をぽんとたたかれた

『ひゃぁ!?』
「おっと・・・驚かすつもりはなかったんだがな」

振り向くと、知人の男がいた。

名前は知らない。

昔、伯父さんが 知人の男 と紹介してくれたから

『あ、あの、私・・・』

「何か探してるみたいだが・・・やめた方がいいと思うぞ?」

男はまっすぐ射抜くような瞳で私を見る

伯父さんもお兄ちゃんもユキノも目は細くない

きりっとした目といえば聞こえはいいけれど、私には恐怖でしかない

更に男は声も低い

男の人に怒られたことのない私はいすくめられ、ふるりと身体が震えた
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