月光と罪
「麻穂様、床の掃除をいたしますのでソファにお座りいただけますか」
素直に従う
わけではなく、スリッパを脱ぎソファに寝転ぶ
また何か小言を言われるかと思ってのことだったが、ユキノは何も言わずに拭き掃除を始めた
「・・・」
『・・・』
束の間の沈黙、それを破ったのはインターフォンだった
雑巾などを部屋の端に置き、ユキノは玄関へと向かった
少しすればリビングのドアを開ける音が。
顔を上げれば、そこには
『お、おにーちゃん!』
最近私をあからさまに避けている兄の姿があった
お兄ちゃんは私がいるとは思っていなかったらしく、驚いたようだ
きょろきょろと部屋を見渡してから私に問う
「・・・・・・あさ、ユキノは?」
「ユキノはここに、透様」
いつの間にか 大荷物を抱えたユキノがお兄ちゃんの隣に立っていた
お兄ちゃんは特に驚く様子もなくたずねる
「風呂の掃除ってできてる?あとコーヒー淹れてくれない?」
「はい、できております。コーヒーは今淹れますか?」
今よろしく、と言えばお兄ちゃんは去って行く
その背中を追いかけて腕をつかんだ
お兄ちゃんと話すチャンスは最近なかなかない
『お、おにぃちゃん、あのね・・・』
「・・・・・・・・なんだよ」
童顔のくせに睨む顔はかなり怖い
でも怯まない、久しぶりに会えたんだから
『えっと、お兄ちゃんにコーヒー、私が淹れるよ!』
「・・・ユキノの方が上手いだろ」
そう言って眉間にしわを寄せて私の手を腕から引き剥がした