月光と罪
「知らなくていいことなんだよ
人生は鈍感さが重要なんだから・・・ね」
伯父さんはそれだけ言うとぱっと離れた
口元にはいつもの笑み、目元には隠し事。
『伯父さんがそう言うのなら』
もやもやが心の中に広がるけれど、それを無視して私は微笑む
“鈍感さが重要なんだから”
伯父はその答えに満足したように、今度こそいつもの笑い方で笑顔を見せた
「・・・冷えてきたね。広間へ戻ろうか」
『そう、だね。もうじきお開きだろうし、少しケーキを食べてくるね!』
私は伯父さんの返事は聞かずに歩きだした
ピンヒールの靴はぐらぐらとバランスがとりにくく、美しく歩けない
ましては走るなんて以ての外
私は初めてそれに対して、面倒くさい、鬱陶しい以外の感情を抱いた
『・・・逃げ出すのを阻んでるみたい』
自嘲的に笑う
逃げ出す?
何から?
ユキノも、伯父さんも、お兄ちゃんも、みんな優しくて、私は今とっても幸せなのに?
なぜこんなことを考えたのかわからない
でも、その日はゆっくりお風呂に入っても、あったかいミルクをのんでも、なかなか寝つけなかった