姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
「小銭入れが無くて探してたら、君の鞄の中に落ちててね。
そしたら丁度、中にお金まで入ってたから、ちょっと借りたんだ」
「おい待て、それってまさか……」
俺は、慌てて財布の中身を確認した。
……ずっと使わないでおこうと思っていた一万円札が、
千円札二枚とレシートの束になっていた。
――何てこった!
「うわああん、おっちゃーん! こいつ逮捕して逮捕!
ドロボー吸血鬼!」
「ああ? ごめん無理無理。
俺もうエリさんにビール貰っちゃったもんね」
プシュッと缶を空ける良い音を響かせて、おっちゃんはエリアルと微笑み合っていた。
おっちゃんはエリアルからのワイロを快く受け入れ、
エリアルはエリアルで、ビールでおっちゃんの信用が買えた事に満足しているらしい。
「ちっくしょおおおおおおう!」
俺の虚しい叫び声と姉さんの笑い声が、木霊した。