姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
待って、やべえスリッパ履いたままだっただの、
エリアルがどさくさに紛れてお尻を触っただの、
負ぶさる時おっちゃんが絶対故意に首を絞めただの、
三人はひとしきり騒いだ後、やっとベランダから飛び立った。
一人取り残された俺は、前回の教訓を活かしてその間に簡単な応急用具と武器を用意した。
ただ、接近戦が怖いのと姉さんが後で困るだろうと思ったので、包丁はやめた。
俺は、水で溶いた洗剤を詰めた水鉄砲を握り締めて、ふと思った。
(今回は、自分達の為に戦うんじゃないんだな……)
今までは、姉さんが攫われたり襲われたり、
エリアルが殺されかけたりしたから戦ってきたはずだった。
けど、今回は俺達のうち、誰一人として具体的な被害を受けていない。
(自宅を焼き討ちされたおっちゃんは、別として)
姉さんは、戦う事を選んだ。
友達を、助けに行く為に。
そして、エリアルも迷わずに飛んだ。
(俺は……)