姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
父は父で、「ヒゲを剃るのが面倒だから」……
というような調子で、「こっちの方が楽だから」と、
いつも上半身だけ獣の姿をしていた。
そして、滅多に家から出ようとしなかった。
俺は父が、人間の姿でいる時の顔をあまり見た事が無かったので、
ある日「僕はお母さんに似てるの?」と尋ねた事があった。
「そうでもないさ」と、父は笑っていた。
「今は、そうは思わなくてもな、二次性徴と同じでさ。
お前もいつか、俺みたいに毛むくじゃらになって、
ナイフみたいな牙がたくさん生えるようになるんだよ」
「大人になるって事?」
「まあ、そうだな」
「耳も、三角になる?」
「狼に、なればな」
「お母さんは? お母さんは、狼にならないの?」
「ならないよ。だって都子は、人間だから」
「人間と狼って、どう違うの?」
「狼が食べる方で、人間が食べられる方だ」
「じゃあ、お父さんはいつか、お母さんを食べるの?」
「食べないよ」