姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③



父は父で、「ヒゲを剃るのが面倒だから」……

というような調子で、「こっちの方が楽だから」と、

いつも上半身だけ獣の姿をしていた。

そして、滅多に家から出ようとしなかった。

俺は父が、人間の姿でいる時の顔をあまり見た事が無かったので、

ある日「僕はお母さんに似てるの?」と尋ねた事があった。

「そうでもないさ」と、父は笑っていた。

「今は、そうは思わなくてもな、二次性徴と同じでさ。

お前もいつか、俺みたいに毛むくじゃらになって、

ナイフみたいな牙がたくさん生えるようになるんだよ」

「大人になるって事?」

「まあ、そうだな」

「耳も、三角になる?」

「狼に、なればな」

「お母さんは? お母さんは、狼にならないの?」

「ならないよ。だって都子は、人間だから」

「人間と狼って、どう違うの?」


「狼が食べる方で、人間が食べられる方だ」


「じゃあ、お父さんはいつか、お母さんを食べるの?」


「食べないよ」


< 176 / 317 >

この作品をシェア

pagetop