姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③



父は、俺を担ぎ上げると、勝手に高い高いを始めた。

もう、俺がそんなことで喜ぶ年じゃないにも関わらず。

「狼はな、人間は食べても、生きてて欲しい人間は食べないんだ。

だってそうだろ? 

もし食べたら、もうその人とは会えなくなっちゃうんだ。

寂しいだろ」


俺とたっくんの事を棚に上げて、父は俺を遊ばせるつもりで振り回し、

思い切り天井にぶつけてくれた。

やっぱり、父も普通の人とズレていた。

俺が学校で、どんなにびくびく過ごしているかを訴えても、

「堂々としてろ」なんて、役に立たないアドバイスしかよこさなかった。


だけど、それでもいいと思っていた。

それが母で、それが父だった。

俺は、それで幸せだった。

いつまでもこの生活が続く事が、当り前だと思っていた。

どんなにそれが、他人にとって恐ろしい光景だったとしても。

おぞましい会話だったとしても。
 

幸せだった。



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