姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
乙矢は意外そうに言った。
「ま、お前は『元テミス』だったって聞いてるから、自分を追って来る者くらい見当ついてたかもしれないけど……」
「ざっけんなよクソが!」
狼は、殊更大きな声で吠えた。激怒していた。
「俺は『元テミス』じゃねえ! 無理矢理攫われてたんだよ! あいつらになあ!」
血がだらだらと流れて止まらなかった。
痛い事よりも、とにかく不快だった。
上手くいかない展開にも、自分勝手な正義を押し付けてくる人間にも。
「お前らはいつもそうだ……てめーらでやってる事全部棚に上げて、
俺達の事を非人道的とか残酷とか言ってやがるんだ……!」
狼は低く唸った。
乙矢が再び銃を向けた。
が、その腕は急に何かに弾かれた。
弾丸は、全く別の方向へ弾き出される。
小夜子が身を固くしたのと同時に、それまで黙っていたエリアルが狼に迫ったが、
狼はそれすらも避け、崩れかけた建物の一角に降り立った。