姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
しかし銀司が再び狼に戻りかけたのを見た乙矢は、はっとした。
「エリアル、そいつのお喋りは時間稼ぎだ!」
「当たり!」
頬の血を目暗ましに散らした銀司は、エリアルの腹部に飛び蹴りをした。
エリアルが吹き飛び、壁にめり込んだ。
「――エリアル!」
小夜子が喉が裂けそうな悲鳴を上げた。
衝撃で舞い上がった埃か煙か、とにかく視界が悪くて何も見えなかった。
乙矢が大声で言った。
「小夜っち! 今そっち行くから動かないで!
でもやばいと思ったら逃げて……!」
乙矢は直感していたのだ。
しかし、遅かった。
小夜子は、すぐに自分の近くに気配を感じた。
地面にへたり込んだまま、動けなかった。
目の前にいたのは、狼男だった。
「……一緒に来てよ」