姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③




加えて、今の彼は自分で思っている以上に余力が無かった。

人を二人抱えて飛行することが、ここまでのストレスになるとは思わなかったし、

(何より乙矢が暴れるし)

最近血を吸っていなかったのも痛かった。

まだ、人間と同じ食べ物からではエネルギーの摂取は出来ないようだった。

空腹を紛らわす事は出来ても、やっぱり自分はどこまでも化け物なのだった。


「ごほっ……ごほっ……」

「……エリアル、エリアル大丈夫か……!」

 
外に出ようと壁に開いた穴の淵に手をかけたら、少し離れた場所に肩腕を庇いながら歩いて来る乙矢の姿が見えた。


「大変だエリアル、小夜っちが攫われた! 

今すぐ奴を追いかけてとっちめな……」
 
そこまで聞いたところで、エリアルは前のめりに転んでしまった。

「わーっ! 大丈夫かーっ!」


立ちくらみ……呼吸をする度に痛苦しい。

肋骨も肺にいくらか刺さっているようだ。

思った以上に、ダメージは深かった。

心臓に直接的な被害が無かっただけ、マシというものだ。


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