姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
「……ねえ、雪絵、さん……!」
「何です、弟君!」
「……あの、俺達どこまで走るの……!」
「勿論、人のいないところです!
本来なら、私だってこんな街中で、氷なぞ出したくなかったです!」
つまり、雪絵の目的は喜咲から離れることではなく、喜咲を引き付ける事なのだ。
「人のいないところって、具体的にどの辺……」
「そうですね……海の方かもです!」
「海!? こっから何十キロあると……」
「でも今止まったら、確実に焼死体になるですよ」
後ろには、途中で拾ったのか盗んだのか、
キックボードを蹴りながら迫って来る喜咲の姿があった。
鬼みたいな形相だ。
(嘘だろ……)
こっちは車にでも乗りたいくらい疲弊しているというのに、反則だろと思いつつも、
喜咲のスタミナ切れは、まだまだ遠そうだった。