姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
――ザッ!
「……っ!」
エリアルが両腕を楯にして首を防御した時に、確かに感触があった。
しかし、エリアルは次の瞬間、銀司の顔面を足場に、一気に宙へ飛び上がった。
鼻先を思い切り踏み付けられた銀司は、仰け反って倒れかけたのを、何とか踏みとどまった。
(何て奴だ。
……人の顔を何だと思っていやがる!)
銀司は怒りのままに、追いかけるように跳ねたが、牙はエリアルまで届かなかった上、思わぬ反撃を食らった。
「……がっ!」
銀司は、脇腹をざっくりと切られた。
重力に従って落ちるようにエリアルから距離を取り、傷口を押さえる。
傷は、幾筋も腹に浮き、流れ出た血が、だらだらとズボンに染み込んでいった。
銀司は、空中から見下ろす彼を、ただ睨み返していた。
エリアルはいつの間にか、両手に赤い鉤爪のようなものを着けていた。
ナックルタイプのものらしい。
あんな武器をどこに隠していたんだろうと疑問に思ったが、やがて匂いで気が付いた。
あれは、血だ。