姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
(さっきの傷から……!)
血で出来た鉤爪は刃物と同じ威力か、もしくはそれ以上に思えた。
少なくとも、液体の硬さではない。
……吸血鬼は、あんなことも出来るのか。
エリアルの表情は、どこまでも余裕だった。
銀司は悔しくてならなかった。
何故、こうも自分の『幸せ』には、邪魔ばかりが入るのか……。
いっそ見切りを付けて逃げてしまえば、この状況は打開出来るのかもしれない。
しかし、この戦いはほとんど、自分が吹っ掛けたようなものだ。
それを放棄さっさとできるほど、彼のプライドは低くない。
(せめて、今日が満月なら……)
狼の種族には、体力やスピードが飛躍的に上昇する周期というものがあり、
そのピークが満月の日なのだった。
人肉への欲求が高まるのも、大体同じ周期である。
今日が満月なら、まだ体も自由に動いたかもしれない。
きちんと『食事』をしていれば、まだ体力は続いたかもしれない。
(全部、現実とは当てはまらない……)