姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
これが普通の人達ではない事は、すぐに分かった。
車は救急車ではなかったし、人々は喜咲と雪絵を取り囲むと、躊躇わずに喜咲の傷の処置を始めたのだ。
明らかに事件性の高い、胸からの出血を。
良く見ると、雪絵と見知った仲のように喋っている人もいた。
孝は茫然としていたが、すぐに近付いてきた男性に声をかけられた。
のっしりと大柄の、ごつい男の人だった。
「おい、君は一般人か?」
覗き込まれるように、そう訊かれた。
「……違うような、『そうです』って言いたいような……」
威圧されつつ、孝は口の中でごにょごにょと呟いた。
「何わけの分からんことを言ってるんだ」
呆れたように言われた孝は、少し迷ってから、彼に尋ねた。
「……あなた達は、『テミス』?」
「ああ、そうだ。
何だ、ちゃんと知ってるんじゃないか」
「先日、親戚に……おっちゃん――じゃなくて、山戸乙矢に、言われたんだ。
『入らないか?』って」
「そんな、まるで風呂みたいに簡単に……」
「……まあ、実際はもっと色々、長い話だったけどね」