姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
 


孝は何だか気が抜けて、その場に座り込んでしまった。

「それで、君は何と言ったんだ?」
 
彼は、孝の目線に合わせてしゃがみ込んだ。


「入るって言ったよ。

姉さんと、居候の吸血鬼……」


「おや、君! 怪我してるじゃないか。

ひどい火傷だ……!」


「……エリアルと、一緒に……」


「おい、大丈夫か!」


「………さむい……」
 

うわ言のように、ぽつりぽつりと呟いた。


遅まきながら孝は、意識が朦朧となっていくのに気付いた。
 

急に、体に力が入らない。

体力の限界だったのか、火傷のショックなのか、全身ががくがくと震え出していた。

こうなるともう、辺りの騒がしさも、男性の言葉も、耳には入って来ない。





(……青子さんは、無事に逃げたのかな……)
 

孝は健気にもそんな事を思い浮かべて、気絶した。




< 264 / 317 >

この作品をシェア

pagetop